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進撃の巨人 視聴後考察|心に残るシーンとキャラクターの成長を振り返る

はじめに:ただの“巨人退治”では終わらない物語

『進撃の巨人』は、巨人によって支配される世界で生きる人類の物語とされ、当初は「壁の中で暮らす人々が巨人に立ち向かうサバイバルもの」という印象を与えました。しかし、物語が進行するにつれ、壁の内外には複雑な歴史や政治的背景、さらには「始祖の巨人」をめぐる謎が存在することが明らかになります。その結果、作品は単なるアクションやホラーの枠を超え、社会問題や哲学的テーマを含んだ壮大な群像劇へと変貌していきました。

この転換が起こることで、読者や視聴者は「そもそも壁とは何か」「巨人はどこから来たのか」「エルディア人とマーレ人の因縁はどのように生まれたのか」といった根源的な問いに直面します。ここでは、それらの問いに対して作品が提示する答えや、深層に隠された真実を考察することで、『進撃の巨人』の本質を探っていきます。


1. 壁が象徴する“自由”と“抑圧”

1.1 壁による安全と閉塞

物語の冒頭、主人公エレン・イェーガーや仲間たちが暮らす壁内の世界は、巨人から身を守るために作られた“安全地帯”として描かれます。しかし同時に、この壁は人々にとっての閉鎖空間でもあり、壁の外に対する好奇心や自由への渇望を抑圧するものでした。エレンが常々口にする「壁の外に行きたい」「自由を手に入れたい」という願望は、人間が本能的に持つ“外の世界”への探求心や、束縛からの解放を強く象徴しています。

ここで注目すべきは、壁は単なる“構造物”ではなく、歴史的・政治的意図を伴って築かれた存在だという点です。後に明かされる「壁の秘密」によって、物語は一気に社会構造や歴史の闇を浮き彫りにし、読者に「何が真実で何が虚構なのか」という疑念を抱かせます。

1.2 壁の崩壊と世界の拡張

超大型巨人や鎧の巨人が壁を破壊することで、エレンたちの生活は一変します。安全であるはずの壁が破られた結果、彼らは否応なく“外の世界”へと踏み出さざるを得ません。しかし、ここで明らかになるのは、壁外の世界は巨人だけが脅威なのではなく、“人間同士の争い”がさらに根深い問題として存在しているという事実です。

壁が存在したことで保たれていた秩序や認識が、壁外の情報に触れることで音を立てて崩れていく。この瞬間こそ、『進撃の巨人』が初期の単純な“人類 vs 巨人”の構図を超え、現代社会にも通じる差別や対立、情報操作といったリアルなテーマを鮮明に描き出す大きな契機となります。


2. エルディア人とマーレ人:歴史が生んだ対立構造

2.1 “巨人の力”がもたらした栄光と呪い

物語が進むにつれて明かされるのは、エルディア人が“巨人の力”によって広大な領土を支配し、他民族を圧迫した過去です。巨人が単なる怪物ではなく、人間が持つ力の一形態として描かれることは、本作の独特な魅力の一つです。そして、この“巨人の力”が一方ではエルディア人に栄光をもたらしつつ、同時に他国からの憎悪や恐怖を買う原因となったのです。

この設定によって、読者や視聴者は「巨人とは何か」という問いに対して、新たな視点を得ることになります。巨人はただの外敵ではなく、歴史や差別構造の具現化とも言える側面を持ち合わせているのです。

2.2 連鎖する憎悪と差別

エルディア人の支配に苦しんだマーレ人は、やがて歴史を覆す力を得てエルディアを滅ぼし、生き残ったエルディア人を壁内に追いやりました。その結果、エルディア人は「悪魔の末裔」と呼ばれ、現代でもマーレ人社会から強烈な差別と監視を受け続けています。

ここでの重要なポイントは、過去の罪が子孫にまで連鎖しているという理不尽さです。先祖が犯した罪に対して、現代を生きる人々が責任を負わされ続ける構図は、史実でも見られる民族間対立を想起させます。作者はこの構図を通じて、読者に「差別の連鎖はどこで断ち切られるべきか」という普遍的な問いを投げかけているのです。


3. エレン・イェーガーが体現する“自由”のジレンマ

3.1 復讐の物語から“自由”の物語へ

主人公であるエレン・イェーガーは、物語の序盤では「巨人を倒したい」という復讐心を唯一のモチベーションとして行動していました。しかし、壁の秘密や外の世界を知るにつれ、彼の願いはより深く、抽象的なものへと変化します。それが“自由”の獲得です。

彼にとっての“自由”は、壁という束縛から解放され、外の世界を知ることを意味していました。しかし、物語が進むにつれて、エレンの求める“自由”は次第に大きな矛盾を孕むようになります。つまり、自分たちの自由を守るために、他者を犠牲にせざるを得ないという極端な思想へと傾倒していくのです。

3.2 世界に牙を剥くという選択

エレンが最終的に選択する道は、物語のクライマックスにおいて最大の論争を巻き起こしました。彼の行動は、エルディア人(壁内人類)を救うために、世界をほぼ丸ごと踏み潰すという非常に過激な手段です。これが正しいのか間違っているのかは、読者や視聴者の間でも意見が分かれるところでしょう。

しかし、この選択こそが『進撃の巨人』の根底にある「自由とその代償」「被害者が加害者になる瞬間」「負の連鎖を断ち切ることの困難さ」といったテーマを端的に示しています。エレンの取った道は、彼自身も含め、すべてのキャラクターを苦しめるものであり、それ自体が人類史における“戦争”や“報復”のメタファーになっていると解釈できます。


4. 他者を理解する難しさと“道”の存在

4.1 “道”が象徴する記憶とつながり

『進撃の巨人』の世界には、“道”と呼ばれる不思議な概念が存在します。これは、巨人の力を持つエルディア人同士が時間や空間を超えてつながる“場所”や“回路”のようなものとして描かれます。一見ファンタジー的な設定に見えますが、その本質は「人々の記憶や意志がどう受け継がれていくか」というテーマに深く関わっています。

この“道”を通じて、過去の継承者たちや、未来の意志までもが相互に干渉し、エレンやジーク、さらに物語に登場する歴代の巨人継承者たちは、何世代にもわたる悲劇や願いを受け止めなければなりません。これは、個人の意志と歴史が不可分に結びついているという点を強調しており、「過去の過ちをどう克服するか」という現実社会にも通じる問いを提示しています。

4.2 過去と未来が交錯するドラマ

“道”の設定によって可能になったのが、エレンが記憶や情報を逆行的に操作してしまう展開です。これにより、物語は線形的なタイムラインでは捉えきれない複雑さを帯びます。「エレンは未来からの情報を得ていたのか」「本当に彼の意志は自由なのか」といった疑問は、作品の読解をさらに難解かつ深遠なものにしている要因です。

しかし同時に、この仕掛けがあるからこそ、クライマックスにおけるエレンの選択が“必然”と“哀しさ”の両面をもって描かれ、視聴者に大きな衝撃を与えます。自由意志を追求するエレンが、実は時間軸を超えた大きな因果の中にいたという皮肉は、物語全体が提示する「因果からの解放がいかに困難であるか」を強烈に示唆していると言えるでしょう。


5. 結末が示す可能性と余韻

『進撃の巨人』の結末は、人類と巨人の戦いが一応の決着を見せる一方で、数多くの余韻や議論を残すものとなりました。作品を通して提示されるテーマが非常に普遍的であり、差別や戦争、民族紛争などの問題に強く重なるからこそ、視聴者に「自分たちはどう生きるべきか」を問いかけるわけです。

一部のキャラクターたちはエレンの行動を否定し、別の道を模索しますが、その先に“真の平和”や“完全な自由”が待っているかどうかは、作中では明確に語られません。むしろ、“解放への道”は決して一本道ではなく、人々がそれぞれの正義と苦悩を抱えながら進んでいくしかないことを示しているようにも思えます。


6. まとめ:現代社会とリンクする“隠された真実”

ここまで、『進撃の巨人』という作品に隠された深層的なテーマや構造について考察してきました。巨人という目を引く設定に注目しがちですが、その背後には、

  • 壁が象徴する自由と抑圧
  • エルディア人とマーレ人の対立が描き出す歴史や差別の連鎖
  • エレンの選択が象徴する“自由”と“犠牲”のジレンマ
  • “道”を通じて示される記憶と意志の継承

といった多層的なテーマが綿密に織り込まれています。そしてこれらは、実際に現代社会でも多くの人々が抱える問題—民族紛争や差別、歴史的な負の遺産の継承、個人の自由と国家・社会の利益のバランスなど—と深くリンクしています。作品中で提示される問いが、私たちにとっても“他人事”で終わらないのは、その普遍性ゆえです。

『進撃の巨人』は、アクションとしての迫力や伏線回収の巧みさだけでなく、物語全体を通じて「人類が繰り返してきた暴力の歴史」「自由を求めるがゆえに生じる葛藤」「憎しみの連鎖を断ち切ることの難しさ」など、重く切実なテーマを描き切りました。だからこそ多くの人々が、その結末に賛否両論の声を上げつつも、“考え続ける”という行為をやめられないのでしょう。

結論として、『進撃の巨人』は、巨人と戦う物語でありながら、それ以上に“私たち自身が抱える人間社会の本質”をあぶり出す鏡と言えます。その奥深いテーマ性は、今後も多くの読者・視聴者を魅了し、新たな解釈や議論を生み出し続けるに違いありません。もし本作をまだ一度しか観ていない、あるいは読んでいないという方は、ぜひもう一度“壁の外”に踏み出す気持ちで再度楽しんでみてください。そこには、単なる巨人退治をはるかに超えた“隠された真実”が、何度でも新鮮な衝撃と発見を与えてくれるはずです。

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